胸の痛みについて

胸の痛みを訴えて受診される方がおられますが、痛みは軽度の方や違和感という程度の方もおられますし、数日前から持続するとか、毎日の通勤中に症状が出るなど、なかなか改善しない状況であれば心臓の疾患かどうか不安な気持ちになることはございませんか?胸の痛みや違和感から考えられる病気は命に関わるような病気から検査してもどこにも異常が見当たらないような原因不明の方もおられます。
実は狭心症・心筋梗塞が疑われる場合には正しい診断のためには造影剤を使用したCTスキャンやカテーテル検査等が必要となります。
もちろんそのような検査は当院では出来ませんが、放っておいていいのか、そもそもご自身はリスクが高いのかどうかを調べることは可能です。なんとなく、狭心症という診断で薬を飲んでいる方もおられると思いますが、血液をサラサラにするお薬を漫然と処方されていたりすると、逆に消化管出血や脳出血などの際には重篤な結果になることもあります。何の目的で内服しているのか分からないような方も一度、確認されてはいかがでしょうか。週刊誌やネットでの情報でお薬を変更して欲しいとのお声も数多くいただきますが、正しい知識を持った専門医に相談した上で、必要最低限の薬を内服するようにする必要があります。
ご自身の症状からご自身の判断で病名をつけることは一番危険なことです。
狭心症(虚血性心疾患)は問診や心電図や心臓超音波検査だけで100%正確に診断することはどんな名医でも今のAI技術でも困難です。可能性が高いかどうか、リスクが他の人に比べてどれくらい高いのか、それを判断するのが専門医の役割です。典型的な症状の方でも、カテーテル検査や冠動脈造影CT検査をしたら綺麗な血管の方もおられます。そこで、鑑別が必要になるのは冠攣縮性狭心症や冠微小循環障害や微小血管狭心症といわれる疾患です。診断するには心臓カテーテル検査が必要ですが、治療に関しては薬物治療が中心となります。血管の痙攣が関与しているのか、見えない部分の血管が細くなっているのかを調べるので正しい薬剤を処方することが可能となります。安易にニトロなどの頓服薬を処方して、なんとなく痛みが治まっていても適切な治療とはいえません。なかには精神安定剤の方が効くという方もおられるので、何の治療をしているのか分からなくなってしまいます。
これまでも大学病院の外来で胸の痛みの原因を知りたい、治療して欲しいなど様々な方を数多く診察してきました。年齢、性別、既往歴、併存疾患、家族歴、痛みの性状や持続時間、症状が出現するタイミングや条件などを伺い、血液検査、心電図、心臓超音波検査、胸部レントゲン検査などの結果を踏まえて総合的に判断するのですが、これだけやっても確定診断にはなりません。実際にカテーテル検査や冠動脈造影CT検査、心筋シンチ検査をしなければ正確な診断は困難です。
だからといって、全員にそれらの検査をするのではなく、可能性が高い人、リスクが高い人を選んで検査を進んでもらいます。場合によっては当日検査が必要な人もいれば、念のためにやりましょうかと説明する方もおられます。その辺の見極めも教科書に書いている通りにはいかないケースもあり、嗅覚というか、勘みたいなものが必要となります。それが医師としての経験であり、腕の見せ所だと思っています。
胸が痛いという方の中には帯状疱疹などの皮膚疾患の方もおられるし、気胸(肺に穴が空いた状態)の方もおられました。
これまで大学での勤務時代に学生や研修医の指導をする際にも繰り返し、問診だけでは分からないこともあるし、正しい診断のためにはより多くの疾患の可能性を視野に入れながら診察することの重要性を伝えてきました。
我々、循環器専門医がリスクが高いと判断する基準としては糖尿病、高血圧、高脂血症、肥満、喫煙歴、家族歴等を必ず伺います。なかでも糖尿病の治療歴が長い方などは典型的な症状が出にくいとも言われておりますので、糖尿病に加えて、他の疾患も併発されているような方は一度、精密検査を受けることをお勧めいたします。
胸の痛みを訴えて大きな病院に行ったら何科を受診したらいいか分からない場合でも、必ずと言っていいほど、循環器内科へ回されます。それは他の科の医師が診察しても最終的に循環器内科の医師でなければ『大丈夫』といえないからです。診断が出来ないので問題ないともいえないし、責任問題になるので他の科の医師は最終判断をすることはないからです。実際に診察して皮膚の病気のこともあるし、別の疾患の方もおられました。心臓の病気かも知れないと思ったらいつでもご相談ください。当院で可能な範囲で検査させて頂きます。
最後まで読んで頂き、誠にありがとうございます。
よこいクリニック
院長 横井 満 日本循環器学会 認定専門医